2006年4月26日水曜日

白石一文さんの小説

懇意にしていただいているノンフィクションライターT氏の紹介で、新進気鋭の小説家、白石一文さんと知り合った。初めてお目に掛かってから、かれこれ2年程になるだろうか。一昨年に他界された第97回直木賞受賞の歴史小説家、白石一郎さんのご子息でもある。

まだ、お会いする前、最初に読んだのは「すぐそばの彼方」(角川書店)。それ以来、彼の大ファンとなり、世に出た作品はすべて読ませていただいた。彼の小説の根底にあるテーマは「人はなぜ生まれ生きるのか?」という問い掛け。とても重たい永遠のテーマであるにも関わらず、小説とは最高のエンターテインメントである、ということをしっかりと認識させてくれた優れた作家として惚れ込んでいる。

実質的な処女作とされている「一瞬の光」(角川書店)もデビュー作とは思えない完成度で、ひとたび読み始めたら途中でやめることが出来なかった。最近、「私という運命について」(角川書店)、そして「もしも、私があなただったら」(光文社)が新たに出版された。前者は珍しく女性が主人公の一作。運命の糸に翻弄されているように見えながらも、すべてが必然としてつながっていくさまざまな出来事や出会いと別れを軸に、次第に本来の幸せに導かれて行く女性の波乱に満ちた生き様が描かれた傑作である。その後、最新作の「もしも、私があなただったら」はまだ先日出版されたばかり。会社を辞めて故郷の博多に戻り小さなバーを開いた男を巡る話。会社を辞めたいきさつや、その後の人生に対する男の心理描写等、現在の自分の置かれた状況との対比という意味でも非常に楽しめた一冊であった。

小説家でもミュージシャンでも映画監督でも、自分が感情移入出来る作品を作ってくれる人との出会いは人生をとても豊かにしてくれる。私にとって、白石さんの小説は、前述した通り、優れたエンターテインメントであると同時に、人生の本質や不思議さに深く思いを馳せるきっかけを与え続けてくれている。

新作を読み終えてしまうのがいつも残念であり、読み終えると同時に次の作品が待ち遠しくてたまらなくなる。

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